埼玉県庁舎はなぜ「現地建て替え」でなければならないのか

2025

地盤から見る災害リスクの比較―浦和区高砂と緑区浦和美園

はじめに

都市計画や建築の安全性を考えるうえで、「地盤」の特性は極めて重要です。とりわけ地震災害時には、建物の被害の程度は耐震構造だけでなく、土地そのものの地盤条件によって大きく左右されます。

本コラムでは、さいたま市内にある「浦和区高砂」と「緑区浦和美園」という2つの地域の地盤特性を比較し、災害に強い庁舎の立地として、なぜ現庁舎所在地である浦和区高砂が最適なのかを論じます。

1.地理と地盤の特性比較

浦和区高砂は、武蔵野台地の東端に位置し、関東ローム層に支えられた堅固な地盤の上にあります。この地形は、地震時の揺れが増幅しにくく、地下水位も低いため、液状化のリスクが極めて少ないとされています。

一方、浦和美園地区は、見沼田んぼに隣接する沖積低地にあり、もともと湿地や水田だった場所です。地下水位が高く、砂質の地盤が多いため、液状化のリスクが高い地域といえます(さいたま市地震防災マップ, 2020)。

2.ボーリング調査結果の比較

アルク設計㈱の協力により行った両地区のボーリング調査では、以下のような違いが見られました。

・浦和区高砂地区(岸町7丁目)

地表から約10mまでは関東ローム層と粘土層が広がり、支持地盤は44m付近にあります。

・浦和美園地区

地表から約10mまでは砂礫層が広がり、支持地盤は20mと38mの二段構えで存在します。

これらから言えることは、支持地盤の深度は浦和高砂地区も浦和美園地区も40メートルである支持地盤の深さ自体は両地区で大きくは変わりませんが、上層の性質が異なります。美園では液状化しやすい砂礫層が広がっているのに対し、高砂では安定したローム層です。

この違いは、地震時に建物の基礎が沈下したり傾いたりする「液状化」に直結する要素です。実際、東日本大震災では千葉県幕張地区などで類似の地盤が液状化し、深刻な被害をもたらしました。

3.地震時の被害想定にみる地盤の重要性

埼玉県の「地震被害想定調査」では、同じ規模の地震でも台地と低地では震度や揺れの持続時間に差が出るとされています。浦和美園では、地盤の揺れの増幅により、震度が0.5程度高くなる可能性があると指摘されています。

また、液状化による建物の傾斜・沈下、火災の延焼リスクなども、低地では顕著に高くなります。これに対し、高砂地区は地盤が安定しているため、建物の耐震性が最大限に発揮される環境といえます。

4.結論:安全・安心な庁舎の立地とは

以上の分析から、浦和区高砂地区は、災害時のリスクが相対的に低く、建築物にとって極めて有利な地盤条件を備えた地域であることがわかります。

埼玉県庁舎は、災害時にも県の司令塔として機能し続けなければならない存在です。その立地は、液状化や過大な揺れのリスクが少ない場所であるべきです。こうした科学的根拠に基づけば、現地・高砂地区での建て替えこそが最も合理的な選択であると言えるでしょう。

参考文献

埼玉県(2019)「地震被害想定調査報告書」

さいたま市(2020)「さいたま市地震防災マップ」

国土地理院「地形分類図(関東平野中央部)」

防災科学技術研究所「表層地盤増幅率データベース」

橋詰直道「東日本大震災による千葉市幕張埋立地の液状化に伴う被害 」

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